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& 『市川浩先生の視線』・・・・・女性フォトグラファー手塚智子さんに聞く &
 多岐にわたる芸術分野でご自身の「身体論」を重ね合わせ、多様な言葉を発信し続けた市川浩先生。フォトグラファー手塚智子(てづか ともこ)さんの作品に対し市川先生の視線はどのようなものであったか、そして先生が私たちに投げかけたメッセージは、なんであったのかをお聞きしました。
(聞き手:坪井 暢)



手塚智子氏
 手塚智子氏プロフィール:
1965年東京都出身。埼玉県立浦和北高校卒。
1988年、東洋美術学校卒業後、写真家大東正巳氏に師事。
1989年、藍画廊での「photographs光響展」を皮切りに個展やグループ展を開催し精力的に作品を発表する。
雑誌のポートレートやエッセイ、ゴルフ場やエステティックサロンのパンフレット制作など、多方面で活躍中。東洋美術学校非常勤講師。
 



Q1: 東洋美術学校に入学後、当初イラストレータ志望だったそうですが、フォトグラファーに転向された契機は、なんだったのでしょうか?

手塚: 東洋美術学校時代になりますが、写真展鑑賞で観たゴードン・オズモンドソン氏の穀物倉庫の写真に感動したのがきっかけで、自分で写真を撮ってみたくなりました。それからといっていいいのか、普段見逃してしまう場面、風景にも注意深くなったのも事実です。ものを見る視点がかわったのでしょうか。




Q2: 卒業後写真家大東正巳さんに師事され、プロを目指されるわけですが、現代美術家の高木修さんは東洋美術学校の恩師ですね。市川先生は、高木さんのご紹介ですか?

手塚: はい、高木先生のご紹介です。卒業後視野を広げるという意味でご紹介いただきました。




Q3: 市川先生の朝日カルチャーセンターも受講されたとのことですが、高木さんのお薦めでしょうか? いつ頃で受講者にどのような方がいましたか? 講義内容、テキストはなんでしたか?

手塚: 卒業後、私はある会社でイベントの企画に携わっていました。すぐにでもカメラがやりたかったのですが、生活があり仕方ありませんでした。高木先生は私のそういう日頃の姿を見ていらして、写真の作品を作りたいといっていた私に、市川先生のお話はもちろん受講生の方と会うことにより刺激を与えてくれたのだと思っています。
テキストは、みすず書房のモーリス・メルロ=ポンティ「眼と精神」だったと思います。




Q4:  講義終了後、市川先生を囲んだ喫茶店での語らいは、みなさん楽しかったと言われています。楽しいエピソードがありましたら、いくつかお願いします。

手塚: そうですね今思い起こすと、社会人1年生の私にはとても個性的なメンバーでした。
みなさん自分の意見を熱く語り合っていました(笑)そんな私たちを市川先生はいつも冷静に受けとめて、ときにはするどく、ときには優しくコメントされていました。




Q5: 手塚さんの個展・グループ展に先生は、何度か来られたそうですね。

手塚: 大変偉い先生がわざわざ足を運んでくださったのでとても緊張しました。
写真の知識がまだあまりない私の作品を素直な感覚で観てくださいました。
とても嬉しかったのを覚えています。



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※TOMOKO TEZUKA Photographs 1988−1990 より





Q6: 市川先生から、体の不自由な方の作品を撮ってくれないかと依頼され、先生の奥様からも感謝されたそうですね。どのような作品ですか? 経緯からお話しいただけますか?

手塚: 渋谷区松濤(しょうとう)にギャラリーTOM(トム)という視覚障がい者、盲人の方が彫刻に触って鑑賞できるギャラリーがあります。あるとき市川先生から視覚障がい者の方々の作品を撮ってきてほしいと依頼されました。その一部がこの写真です。市川先生は、ヨーロッパへご旅行するにあたりギャラリーTOM(トム)を紹介したいとおっしゃっていました。



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Q7: 手塚さんの作品に対して「女性らしくない感覚の写真がおもしろい」と市川先生が述べられたとお聞きしています。その言葉に対して手塚さんのご感想はどうですか?

手塚: 本当に嬉しかったです。市川先生が自分の撮った作品に対してコメントしてくださったことが、どれほど励みになったことか・・・。当時、無機質なものをテーマに撮影していたので、周囲からは、変わっているだとか、もう少しわかりやすい被写体をすすめられていました。写真の技術がないのに、何も伝わらないなど、いわれたりで行き詰まっておりました。そんな時に先生が、面白いとおっしゃってくださいました。このまま撮り続けてもいいと思う勇気とやる気を持つことができました。今、写真を続けていられるのも、先生の助言があったからですね。




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※ORISSA―India― より




Q8: 高木修さんはエッセイで『手塚さんの視線と作品を見る人間の視線が共振する』と書かれています。手塚さん作品に対して市川先生の視線は、どのようなものだったとお考えでしょうか?

手塚: 工場のシリーズは、機械(タンク)の性能など無視し、オブジェのようにとらえて撮っているので、市川先生もそのあたりを理解してくださっていたと思います。高木さんがエッセイで書いてくださったように、私と同じ視点で市川先生も、写真の被写体を、とらえてくれたのではないでしょうか?



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※「TANK TERMINAL 1992」ギャラリーαMより





Q9: 私の勝手な想像ですが、写真にも「術」と「道」があると思っています。
「術」はスキル・手法、「道」は精神性とかストラテジー・哲学とかもっと大きな「思想」ですね。手塚さんの作品の「道」に市川先生の視線があったのではないでしょうか?

手塚: はい、私もそう思いたいですね。技術面ではまだまだな写真でしたし(笑)
カメラのピント・グラス上に抽象的なデザインを型づくる写真は、一日の光の移ろい、季節の変化を感じさせるアート作品だと観てくださっていたのではないでしょうか。




Q10: 手塚さんのこれまでの中で、少なからず市川先生から影響を受けたことがありますか? 市川先生の芸術全般に向けた多様性、人間性そして市川先生の書かれた著作が私たちに投げかけたメッセージは、なんだったのでしょうか?

手塚: 影響ですか? 人間への接し方でしょうか。人に対してフィルターをかけてみる。ときにはフィルターをはずしてみる。理解するということです。
難しいことは分かりませんが、常にいいものは残し、新しいものは取り入れるという精神を与えていただいたと思っています。




Q11: ポジ・ネガからデータの時代へ。現在カラーでもモノクロでも画像をいくらでもCGで修正できます。車、家電に代表されるプロダクツはCADデータから3D処理が増えています。ロケも行かなくて済みます。そう思うと20年くらい前は本当にいい時代でしたね。フォトグラファーの手塚さんからみて、現在の多方面でのアナログからデジタル化をどう思われますか? もっとも市川先生は、時代に敏感で新しいもの好きでしたから生きていらしたらスマートフォンを器用に使いこなしていたように思いますが(笑)

手塚: デジタル化になり写真の仕事は、とても簡単になったと思います。
銀塩シルバープリントの味のある仕上りは望めませんけれど、私は今でもフィルムタイプのカメラが大好きですね。アナログもデジタルも使い分けて扱っていくのがといいと思います。確かに先生は、時代に敏感でしたね。スマートフォンは器用に使いこなされ私たちに扱いを教えてくださっていたと思います(笑)




Q12: 最後になりますが、手塚さんは東洋美術学校で非常勤講師をされています。
市川先生と共有した時を経て、この急激なデジタル時代への変化にともないつつ、これから生徒たちにどのようなことを発信されていきますか? 一端をお聞かせいただければと思います。

手塚: 学生たちには、今でもフィルムタイプ、暗室作業の授業を取り入れています。市川先生のように、この生徒はだめだと決めつけないで、これからも講義していくつもりです。




■手塚智子さんの軌跡■

□個展
1990 photographs 1988-1990展 (ギャラリーNWハウス)
1992 TANK TERMINAL 1992 (ギャラリーαM)
1997 EYES (藍画廊)
1999 childhood  (アタミカルチャーネットワークギャラリー)
2001 RED HOT ASIA (新宿コニカプラザ)
2006 India展(巣鴨STクラブ)
2006 ORRISA(新宿ポルトリブレ)

□グループ展
1998 photographs 光響展 (藍画廊)
1991 PASSION (銀座九美洞ギャラリー)
1991 photographs 光響展 (藍画廊)
1992 パフォーマンスシリーズvol.1~vol.3(スタジオ錦糸町)
1993 光響展 (藍画廊)
1999 イラストレーターチチ氏の個展でのコラボレーション(吉祥寺shop33)
2005 冒険としての[写真]展 (Art Planning AOYAMA)
2009 マリンスパ展(マリンスパあたみ)

●手塚智子さんのホームページ
 http://www.tomokotezuka.com/